必要なのは〝マルクス〟ではなく〝シュンペーター〟 「イノベーションの理論の父」と呼ばれた理由【中野剛志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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必要なのは〝マルクス〟ではなく〝シュンペーター〟 「イノベーションの理論の父」と呼ばれた理由【中野剛志】

 

 そして、日本経済が長い停滞に陥り、日本企業がイノベーションを起こせなくなった理由についても、はっきりすることでしょう。

 その理由とは、「シュンペーターの理論とは正反対のことをやり続けたから」です。これに尽きます。

 おそらく、本書を読んだ方の多くが、シュンペーターの天才ぶりに舌を巻くことでしょう。そして、「目からウロコが落ちる」という経験をし、資本主義に対する見方を大きく変えることになるでしょう。

 本論に入る前に、シュンペーターの生涯と、社会科学における彼の影響の大きさについて、簡単に紹介しておきます。

 ジョセフ・アロイス・シュンペーターは、一八八三年に、オーストリア=ハンガリー帝国領のトリーシュという小さな町に生まれました。この町は、現在はチェコ領になっています。

 一九〇一年にウィーン大学法学部に入学し、そこで経済学者フリードリヒ・ヴィーザーの指導を受け、大学卒業後の翌年、すなわち一九〇六年に法学博士号を取得しました。

 一九〇八年に処女作『理論経済学の本質と主要内容』を発表し、一九一二年には、本書でも採り上げる『経済発展の理論』を発表して、新進の経済学者としての名声を確立しました。

 第一次世界大戦後には政治や実業の世界にも進出し、一時期、オーストリアの蔵相を務めたり、銀行の頭取に就任したりしたこともありましたが、うまくいかなかったようです。

 一九二五年にはオーストリアを離れてドイツのボン大学に移り、一九三二年にはアメリカに移住してハーバード大学の正教授となりました。この間の一九三一年には日本を訪問して、日本の経済学界にも大きな影響を与えました。

 ハーバード大学では、シュンペーターは、数多くの学生を指導しました。その中には、ポール・サミュエルソン、ポール・スウィージー、ジェームズ・トービン、ハイマン・ミンスキーなどが含まれます。いずれもその後の経済学の発展に大きな貢献をした経済学者ばかりです。特に目を見張るのは、彼らの思想や学派が、主流派経済学、ポスト・ケインズ派、マルクス主義など、実に多種多様だということです。このことからも分かるように、シュンペーターは、学生に自分の思想を押し付けるような人ではなく、また、生前、学派を形成するようなこともありませんでした。

 シュンペーターの主な著作には、『経済発展の理論』のほかにも、『景気循環論』『資本主義・社会主義・民主主義』『経済分析の歴史』などがありますが、いずれも大作です。

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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